戸塚章介(元東京都労働委員会労働者委員)
昨夕五香駅前の「やきとり栄」に行った。ひと月ぶりくらいかな。ちょっと間が開いてしまった。中生一杯、レバたれ2本、ブリカマ塩焼き。ボトルキープの焼酎は水割りで飲む。おれが店に入った時1人いたお客が瓶ビールを3本飲んで5時半頃おあいそして出て行った。その後親父さんと世間話をした。
土曜の夕方だというのにお客が少ない。居酒屋チェーン店に流れてしまうらしい。2000円内で酔って食えるというのが飲み客の目安のようだ。チェーン店ではお客同士の交流はない。自分たちのグループだけかあとは一人で黙って飲んでる。だから店内がシーンとしている。活気がない。もっともカラオケが売り物のの店では今度はうるさくてゆっくり飲んでいられない。酒と料理を楽しむ雰囲気ではない。
親父さんやおれたちの若い頃、小料理屋というそこそこに値段も張るがそれなりに雰囲気のある店があった。その昔芸者をしていたり料亭の仲居さんだったりした小粋なおかみさんがお酌をしてくれた。残り香のような色気もあって、きつい労働の一日が癒されたよね。そんなお店がなくなった。
いい素材を吟味してつまみに出したり、いい酒を勧めたり、お客と心が通うような親父さん、おかみさん。それを居酒屋文化と言ってもいい、そんなものが廃れてしまった。原因はなんだろう。格差と貧困が社会を覆うというお客の方の変化もさることながら、親父さん、おかみさんの高齢化も顕著だよね。後継ぎがいればいいけどそれがいない。子どもがいても後を継がない。
そう言えば最近「はしご酒」というのを聞かない。客の財布が軽くなったのも原因だが、はしごして飲みたくなるような店がない。屋台に毛が生えたような店で安酒を飲み、勢いで小料理屋へ。最後はスナックで仕上げをした時期があった。だんだん上がるからはしごで、同じような店では次へ行く気がしない。
そんな愚痴を言い合っているうちに7時になった。新しいお客は入ってこない。「すまないけどこれで帰るわ」と今日の勘定2150円を払って「やきとり栄」を後にした。銀行の前に止めておいた自転車に乗って家へ向かう。小腹が空いていたので、煮干しダシのラーメン屋にでも寄ろうかなと思ったが、別のことに思い当たって素通りしてしまった。家へ帰って日本シリーズを見ながら昨日飲み残した780円のチリ・ワインを飲もう。このくらいの空きっ腹がちょうどいい。生暖かい宵の口だった。