戸塚章介(元東京都労働委員会労働者委員)
日産自動車のカルロス・ゴーン会長が19日逮捕された。容疑は実際より少ない報酬額を有価証券報告書に記載した金融商品取引法違反だというが、おれは特別背任もしくは横領罪だと思う。「正規の報酬」(それも高すぎるが)の倍以上ちょろまかしていたのだから単なる「虚偽記載」ではないのではないか。
こんな独占企業トップの犯罪が堂々とまかり通ったのは何故か。本21日付『毎日』社説は「長期独裁の大きなゆがみ」だと言うが、それだけではないだろう。根本には日本社会にはびこっている「利益第一主義への信奉」があると思うのだがどうだろう。ゴーンは日産の救世主ともてはやされていたのだ。
今日の『赤旗』が、06年に『産経』紙上でゴーンと対談した安倍首相(当時官房長官)の言葉を紹介している。「ゴーンさんが果たされた役割は大きいと思いますよ。日産はルノーと提携し、ゴーンさんが来て、その結果、会社は活性化し、存続し、雇用も守られた」。まさに手放しの礼賛だ。
ゴーンは02年に「企業に手腕を発揮した経営者」として総理大臣表彰も受けている。「企業に手腕を発揮して雇用を守った」というわけだ。冗談でない。ゴーンは2万人以上の首を切ったのだ。「犠牲にされた労働者」「『50億円あれば派遣切り必要ないのでは』」「関係者怒りの声」(『赤旗』)。
政財界はこぞってゴーンを持ち上げた。ではマスコミはどうか。今日の『毎日』には「堕ちたカリスマ」として日産経営の裏側にメスを入れている。「権力集中うみたまる」「ルノーが収益吸収、社内に不満」「国内市場軽視に批判」「威光背に側近支配」。まさに批判の洪水だが、どうも「今だから言える」というたぐいにおれには思える。問題は「これまではどうだったのか」ということだ。
『毎日』だけではないだろう。新聞もテレビもゴーンの日産をヨイショしていたのではないか。何しろ大スポンサーだから悪口は書けない。『赤旗』でジャーナリストの阿部芳郎氏は「経営の数字さえ上がれば優れた経営者だとして改革の中身も検証せずに政治家やマスコミがほめちぎった。リストラと非正規雇用の増大で政府の全面的なバックアップがあり、ゴーン氏に権力を集中して何でもできるようにした。改革の中身をよく見ないでゴーン氏を天まで持ち上げた結果だ」と語る。その通りだ。
それにしても『毎日』社説の「長期独裁の大きなゆがみ」という見出し、どこかの国の首相にもピタリだよな。