戸塚章介(元東京都労働委員会労働者委員)
「仏大統領、首相に面会要請」「日産・ルノー巡り」(30日付『毎日』)。日産ゴーン前会長の逮捕劇が日仏間の政治問題化となりそうだ。『毎日』によればマクロン仏大統領の要請趣旨は「仏政府が筆頭株主でゴーン容疑者が会長を務める仏ルノーと日産の提携関係維持」だというが、ゴーン逮捕そのものへの抗議の意思も含まれるのではないかとおれは見ている。フランス側にとって「逮捕」は疑問符なのだ。
日産立て直しを理由に労働者の生活と仕事を奪い、工場閉鎖で地域経済を破壊、一方で会社の金を私的に費やしていた男など弁護するつもりはさらさらない。しかし、有価証券の虚偽記載というだけで逮捕、長期取り調べをするというのはちょっと大げさすぎるのではないか。裏の逮捕理由があるのではないか。
実は、ゴーンは過去にれっきとした犯罪を犯していた。08年のリーマンショックの際、私的に運用していたデリバティブ(金融派生商品)で約17億円の損失を出し、その損失分を日産に付け替えたというのだ。これは内緒でできることではなく、経営陣はもちろん取引の新生銀行も監督官庁も承知していたことは間違いない。この時点で告訴されていればゴーンは間違いなく特別背任罪で逮捕されていたはずだ。
30日付『毎日』によれば「金融当局の指摘を受け、損失は日産からゴーン前会長側に戻した」という。おれには「泥棒が見つかったから品物を元に戻した」だけと思えるし、それで泥棒行為が免罪されるわけがない。ところが当時はそれで済んでしまった。特別背任罪の時効は7年だというから今更どうしようもない。
今回のゴーン逮捕は日産経営陣のクーデターだという見方が有力だ。何故クーデターを起こさなければならなかったのか。ルノーは日産株の43%を持ち議決権を有する。このままいくとルノーに経営統合されるのではないか、という不安があったのは事実だろう。しかしそんなことなら重役会の決定などで抵抗すればいい話で、ゴーン逮捕の荒療治は必要なかった、とおれは思う。
ここからはおれの推理だが、ゴーン逮捕は日本政府・安倍首相が誰かの差し金で遂行したのではないか。アベにこんなことを命令するのは世界に一人しかいない。トランプ米大統領だとおれは考える。アメリカファースト、自由貿易否定でEUとの経済摩擦を引き起こしているトランプ。マクロン憎しで打った手が仏国策会社ルノー苛めではないか。それに唯々諾々と乗せられたわが安倍首相。このように見てくると今回のゴーン逮捕劇の舞台裏がぼんやりと見えてくる気がするのはおれだけだろうか。