戸塚章介(元東京都労働委員会労働者委員)

入管法強行の報を聞いて感じたこと 18/12/08

明日へのうたより転載

 改正入管法が本未明に参院本会議で自民、公明、維新の会などの賛成多数により成立した。凶暴法、働き方改革法に続いてズサン・虚偽資料提出、短時間審議、強行採決のお決まりコース。議会制民主主義の破壊行為だ。

 本8日付『毎日』は「現実を直視しよう」と題する磯野由美社会部長の論評を載せた。その中で磯野部長は「深刻な人権侵害が後を絶たないことが今回の審議で改めて明らかになった」と指摘している。大事な指摘だと思う。物事には功罪両面がある。今回の入管法改正はもちろん悪法だが、審議過程で現行の技能実習生がいかに人間性無視で過酷な制度であるかが公にあからさまにされた。思わぬ功績である。

 野党議員の聞き取り調査などによって、技能修習生の劣悪な労働環境、逃亡、自殺などの実態が明るみに出て国会審議の場で議論された。これまで外国人労働者支援組織や労働組合が取り上げても、ほとんど国民の間で話題にもならなかった。まれには殺人事件まで起きているのである。

 06年4月、中国黒竜江省チチハル市の崔紅義さん(当時25歳)は送り出しブローカーに8万元(120万円)を払って技能修習生として来日した。日本側受け入れ機関は千葉県農業協会。職場は木更津の養豚農家、月給6万5000円、パスポートは協会が保管という条件。無遅刻、無欠勤で働いた。

 8月に入ってもっといい仕事があると耳にしたので転職を申し出た。すると協会理事のK氏は崔さんを無理やり帰国させようとしもみ合いになった。崔さんは包丁を持ち出しK氏を刺してしまった。K氏は死亡、傍にいた通訳の女性も傷を負った。崔さんはその場で逮捕され、「殺意はなかった」と主張したが認められず07年7月、千葉地裁木更津支部で懲役17年の判決を受け控訴せず服役した。

 崔さんの支援組織がつくられ、両親が来日した。父親は「土地を売り、借金をして送り出した息子が人を殺め、手元に残ったのは多額の借用書だけ。何故こうなったのか」と嘆いた。崔さんは拘置所で自殺を図り「生きているのが辛いです。亡くなったKさんに申し訳ない」と泣いたという。

 崔さんが服役して12年になる。彼が出獄して社会に出たとき、日本の外国人労働者に対する受け入れ環境はどう変化しているだろうか。このままでは抜本的改善は望めないような気がする。第二、第三の崔さんを出さないためにも人権尊重を基本にした法基準がつくられるべきだと考える。