戸塚章介(元東京都労働委員会労働者委員)
ネットで見た「年のはじめに考える 分断の時代を超えて」というタイトルの『東京新聞』元旦付け社説の指摘が鋭い。30年前、ソ連が崩壊し、EUの共通通貨ユーロが発行され、日本ではバブル景気がはじけて非自民政権が生まれた。世界は自由と競争を手に入れたかに思えた。それが「自由の寛容さ」を失って「悩み苦しみ、未来希望を持てない人がでてきた」というのである。
おれは90年代初めに崩壊寸前のソ連と東西統一前夜の東ドイツ、そしてソ連の圧政をはねのけたばかりのハンガリーに旅行した。旅行者にそんなに深いところは分からないが、この先の世界は、政治は、自由に輝くのだという人々の期待、熱気を感じたものだ。ところがその「自由」は窒息した。
「経済の競争は、労働力の安い国への資本と工場の移転で、開発国の経済を引き上げる一方、先進国に構造的経済格差を生んだ。リーマン・ショックは中間層を縮め失職さえもたらした」「アメリカでは貧しい白人労働者たちを『忘れられた人々』と称したトランプ氏が勝ち、欧州では移民を嫌う右派政党が躍進。人権宣言の国フランスでは黄色いベスト運動が起きた」。これらの現象を『東京』社説は「格差が、不平等が、政治に逆襲したのです」と表現する。日本も同じだ。
「『非正規』という不公平な存在を生みました。貧困という言葉がニュースでひんぱんに語られるようになりました」「それらに対し、政治はあまりにも無力、無関心だったのではないでしょうか」。この間の政治はひと言でいえば「国民を友と敵に分断する政治」であり、「敵をつくることで民衆に不安と憎悪を募らせ、自己への求心力を高める」政治だった。ヒットラーや敗戦前の日本軍国主義の再来だ。
ではどうすれば「分断の時代」を乗り越えることができるか。『東京』社説は①うそをつかない政治、②少数派を抑圧せず少数派の発言に耳を傾ける政治、の二つを提起している。最後に国民全体に呼びかける。「民主主義は死んだりしません。民主主義とは私たち自身だからです。生かすのは私たちです。危機を乗り越えて民主主義は強くなるのです。その先に経済も外交もあるのです」。
その通りだと思う。かつて例えば60年安保闘争、ベトナム反戦、インフレ反対、反原発運動などで日本の民衆は決起した。その中心に労働組合の旗があった。再び組合旗を掲げようではないか。