戸塚章介(元東京都労働委員会労働者委員)
「横畠長官発言 『越権行為』広がる波紋」「参院予算委員長厳重注意」(9日付『毎日』)。「横畠祐介内閣法制局長官が国会で野党議員の質問をやゆした発言が波紋を広げている。8日には金子原二郎参院予算委員長が遺憾の意を表明し、横畠氏に厳重注意を求める事態に発展した」。
金子委員長に注意された横畠氏は「行政府にある者の立場を逸脱した誠に不適切なもの」と謝罪し、「今後2度とこのような発言をせず、誠実に答弁していく」と釈明したそうだ(『毎日』)。しかし立憲民主党の杉尾秀哉議員は「憲政史上に一大汚点を残した。辞めるべきだ」と怒りは治まらない。
横畠氏の答弁は「(国会の行政監視機能は)このような場で声を荒らげて発言することまで含むとは考えていない」というもの。同じ趣旨をを安倍晋三氏が発言したとしたらこのような問題にはならなかったろう。横畠氏はうかつにも安倍首相の代弁をしてしまった。それも無理からぬような気もする。
何故「無理からぬ」のか。官僚と政府答弁は切っても切れない関係にあるからだ。つい4か月前の18月11月、桜田義孝五輪相は国会でのしどろもどろ答弁を追及され「事前に詳細な質問内容の通告をいただければ充実した質疑ができた」と言い訳をした。官僚の答弁準備が間に合わなかったことを嘆いたのである。
毎月勤労統計の不正問題でも加藤勝信厚労相は官僚のメモを棒読み。安倍首相や外相、財務相など主要閣僚の答弁も同じようなものだ。そんな国会運営に慣れてしまった官僚が、つい本物の大臣の答弁領域に入り込んだ。それが今回の横畠内閣法制局長官ではなかったか。現政権の国会運営の当然の帰結に思える。
それにしても内閣法制局長官という地位が軽くなったこと、今更ながら嘆かわしい。以前は内閣のやることに対して違憲か合憲か厳しくチェックしていた。集団的自衛権や自衛隊の海外活動について違憲の見解を述べていた。それが歴代の内閣法制局長官だった。だからこそ「法の番人」と呼ばれたのだ。
ところが第二次安倍内閣が発足するや、集団的自衛権の行使を可能にするよう憲法解釈を変更するために2013年8月、以前から行使容認派と言われていた小松一郎氏を任命。2015年9月の戦争法強行採決の盾に使った(小松氏はその年6月死去)。そして後任が横畑祐介長官。今や「法の番人」から「権力の番犬」に成り下がったと言われても仕方なかろう。「越権行為」よりもこっちの方が嘆かわしい。