戸塚章介(元東京都労働委員会労働者委員)

東洋大学タテカン事件に思う 19/03/16

明日へのうたより転載

 東洋大学の白山キャンパスで「竹中平蔵による授業反対」というタテカン(立て看板)を立てた斎藤円華君の言い分が3月15日付の『週間金曜日』に載っている。運動としては思ったように広がらなかったようだが、一般学生、学校側、教授たちに一定の刺激となったことは確かだ。

 斎藤君は1995年生まれ、同大学文学部哲学科の4年生。今春卒業予定だ。その斎藤君がタテカンと同時に配布したビラの中でで竹中平蔵の授業に反対する理由を次のように述べている。

 「竹中氏が主導した労働政策の大規模な規制緩和によって非正規労働者が増大し、雇用が以前に比べて圧倒的に不安定化したためです。しかし一方、竹中氏自身は人材派遣会社パソナグループの会長であり、労働者派遣法の緩和で利益を得る立場にいます。そのしわ寄せは私を含む若者やその子どもらの世代にも来ていて、自分たちはどんどん企業に使い捨てにされてしまう。私たちの将来に直結する問題です」。

 この問題意識は100%的を射ている。今の大学生の中にこんなにズバリ物の言える若者がいるとはほんとに頼もしい限りだ。それをタテカンとビラ配布という古典的な手法でで訴えた。ただし一昔前のような集団(セクト)に頼らず、1人で考えて1人で実行したあたりが現代風と言えば現代風である。

 斎藤君は「(今の大学は)真理探究の場としてふさわしいのか」と疑問を呈する。「(東洋大学)6号館が『パノプティコン』、つまり一望監視できる刑務所のような造りになっているのです」。そんな中で大学が「就職予備校」化する。竹中氏はその動きを加速させるために東洋大学にやってきた。

 このタテカン騒ぎに対して大学当局は、掲示10分後に強制的に撤去し、斎藤君を呼びつけて「退学処分となる可能性がある」「親にも連絡する」と脅した。ところがここから話は現代風になるのだが、斎藤君が発信したSNSによってあっという間に問題が拡散し大学当局の動向に注目が集まった。結局大学当局は退学にもできず、親も呼べなかった。学則を示して「例示しただけ」と言い訳している。

 逆に斎藤君への支持が集まったかというとそれもほとんどないのだそうだ。斎藤君が授業を受けている哲学科の教授も「上が首を縦に振らないと動けない」と逃げの姿勢だ。「私に対する大学当局の対応は民主主義がいまだに立ち遅れている証拠。しかしだからこそ良い方向に変わる可能性も」と斎藤君は意気軒昂だ。