戸塚章介(元東京都労働委員会労働者委員)

団結権擁護の役目を投げ捨てた中労委 19/03/20

明日へのうたより転載

 「店主の団交権認めず」「中労委判断」「コンビニ『労働者ではない』」(16日付『毎日』)。「コンビニオーナー団交認めず」「中労委『労働者に当たらず』」(16日付『赤旗』)。2014年交付の岡山県労委と15年交付の東京都労委の「団交せよ」との命令を中労委が2件まとめて頭から否定した。

 中労委が、コンビニオーナーは労働者でないとする根拠はつまるところ「オーナーは独立した小売業者である」という判断に尽きる。「会社の事業の遂行に不可欠な労働力として会社の事業組織に組み入れられ、労働契約に類する契約によって労務を供給しているとはいえない」「(オーナーは)会社から労務提供の対価として報酬を受け取っているということはできず、他方で、事業者性は顕著である」。

 なんという判断だ。政府が主導する「働き方改革」の方向に沿った、というよりすり寄ったと言ってもいい姿勢だ。いま厚生労働省のあり方がいろいろ問題になっているが、「中労委よお前もか」と言いたくなる。労働委員会が戦後70年に亘って営々と築き上げてきた労働者保護の基本を投げ捨てるのか。

 理屈はいろいろあるだろうが、コンビニオーナーが朝から夜まで過酷な労働を強いられているのは紛れもない事実である。自分の意思でなんとか調整できるような生易しい労働環境ではない。自分が過労死のリスクを背負って働いた上に事業者としての責務も果たさなければならない。それがオーナーなのだ。

 同じような働き方をしている労働者は沢山いる。車持ちダンプ運転手、NHK受信料の集金人、新聞や雑誌と契約するフリー記者、エレベーターなどの保守業務、オーケストラの楽団員等々。労働委員会はこれらの人々が労働者であることを実態に基づいて認定してきた。

 独立した事業者かどうかで議論されたプロ野球選手についても都労委は、①球団と選手との契約は対等とは言えない、②年俸は一部高い選手がいるものの平均すれば労働者としての賃金の範囲内である、③年俸は事業所得として取り扱われているが労働者性の障害にはならない、として労働者性を認定している。これによってプロ野球選手会(労働組合)は球団及びその上部機関であるプロ野球機構(実行委員会)との団交権が認められている。この基準に照らせばコンビニオーナーの労働者性は自明の理のはずだ。

 労働委員会はいうまでもなく労働者の団結権擁護の行政機関である。労働者という概念は経営者の意図によって狭められる傾向にある。労働者性の否定は団結権の否定そのものだ。かつて都労委委員として労働委員会の中で仕事をした一人として、中労委が本来の役割に立ち返ることを強く求める。