戸塚章介(元東京都労働委員会労働者委員)
「ヘエーそんなことがあるんだ」と思い知らされたネット情報。「2019年防衛大学卒業式で大量の任官拒否が出た理由」(3月30日配信『FRIDAYデジタル』)。神奈川県横須賀市にある防衛大学校の卒業式が3月17日に行われたが、卒業生478人中49人が参列しなかったというのだ。
これら49人は防衛大を卒業しても自衛官にならない道を選択した。任官拒否者は卒業式への出席を許されない。「過去最多の任官拒否が出たのは、バブル景気と湾岸戦争を巡る自衛隊派遣論議が重なった91年の94人だが、49人はそれ以降で最多の数字である」。学費免除、ボーナスまで出して幹部候補生を養成する目的の防衛大にとって任官拒否は痛手だ。教授らが必死に翻意させようと説得したが、彼らの決意は固かった(防衛大関係者の証言)。
『FRIDAY』は任官拒否の理由について政治アナリストの伊藤淳夫さんの次のような談話を紹介している。「安倍政権への不安があるのは間違いありません。今年の卒業生は、15年に安倍首相が強引に安保法案を成立させる過程を見てきた世代。『当事者』として、危険地域へと派遣される可能性と直面し、熟慮の末、任官拒否という道を選んだのでしょう」。
時も時、政府はエジプト・シナイ半島に多国籍監視軍(MFO)の司令部要員として自衛官2人を派遣することを閣議決定した。3年前の南スーダンへの「駆けつけ警護」と称する派遣以来の、戦争法に基づく派兵行為である。岩屋毅防衛相は「自衛官の人材育成面でも大きな意義がある」と強調する。戦争をする自衛隊員、戦争の出来る幹部自衛官を育成するというわけだ。
安倍晋三首相は「憲法を改正して自衛隊を明記し自衛隊員に誇りを持たせたい」と盛んに自説を振りまいているが、当の自衛隊員はどう思っているのか。ありがたいことだと涙を流して喜んでいるのだろうか。国の金で養成したはずの防衛大卒業生の1割余が自衛隊に入りたくないと言っている現実をどう見るのか。
日本は74年もの間他国民を戦争で殺さず、他国民に戦争で殺されずに過ごしてきた。おれたちの親や祖父の時代と違ってその点では幸せな世代だったと感謝している。それが安倍一強と呼ばれる政治動向の中で再び平和が危うくなろうとしている。「あんな最高指揮官のもとでは働けない――。現政権が続けば、任官拒否者はますます増えそうだ」と『FRIDAY』は記事を締めくくっている。安倍戦争志向政権が足元から崩れる予感がする。いやみんなの力で崩さなければならない。