戸塚章介(元東京都労働委員会労働者委員)

WTO敗訴、遺憾なのは日本政府の姿勢だ 19/04/15

明日へのうたより転載

 「WTO 日本『水産物』敗訴」「韓国に禁輸撤廃要求継続」(13日付『毎日』1面)「日本誤算 戦略に打撃」「禁輸撤廃材料失う」「日韓さらに火種」(同3面「クローズアップ」)。「東京電力福島第一原発事故後、韓国が実施する日本産水産物の輸入規制に事実上の『お墨付き』を与えられた結果となり、日本の提訴が裏目に出た形」。藪をつついて蛇を出してしまったというわけだ。

 WTO(世界貿易機関)は2審制だ。1審の紛争処理小委員会は昨年2月に日本側の主張をほぼ認める形で韓国の輸入規制はWTOルールに違反すると判断し、韓国に是正を勧告。韓国はこの判断に異議を申し立て上級委員会で争っていた。事前の日本有利の予測を覆す逆転敗訴だ。

 この逆転敗訴で一番被害を被るのは原発事故に苦しむ地元水産業者である。「被災地復興に冷水」「『海のパイナップル』と呼ばれるホヤの国内最大の養殖地で、震災前は生産量の約7割を韓国に輸出していた宮城県。原発事故で韓国が輸入を止めた影響で、17年も6900トンの廃棄を余儀なくされた」「『まさかの敗訴』は養殖業者たちをどん底に突き落とした」(『毎日』)。

 日本政府は被害者の立場に立って問題解決に当たってきたように言う。「復興に向けて努力されてきた被災地の皆様のことを思うと、誠に遺憾だ」(吉川貴盛農水相)。本当にそうだろうか。日本水産物の禁輸は韓国の国内世論の反映でもある。韓国国民を納得させるような話し合いによる解決への道が必要だったはずだ。それをWTO提訴という「強権」によって抑えつけようとした。その姿勢に問題はなかったか。
 
 原発事故後、日本産食品の輸入を規制した国は一時54か国・地域にのぼったという。今でも韓国を始め米国、ロシア、中国、EU、インドネシア、フィリピン、台湾など23か国・地域が規制を継続している。理由が福島第一原発事故による放射能汚染への懸念であることは間違いない。

 今回のWTO審決でも「(1審の判断では)潜在的な汚染の可能性が説明できない」と指摘されている。世界は日本の放射能汚染がクリアされたとは思っていないということだ。安倍首相が東京オリンピック招致に際して「放射能は完全にアンダーコントロールされている」と断言したのは嘘っぱちだと見ぬいているのだ。

 もし政府が本気になって日本食品の安全性を世界に納得させようとするなら、まず原発再稼働方針を改めるべきではないだろうか。原発輸出を始め原発固執の姿勢を継続したままでは世界の誰もが日本を信用するわけがない。WTOの審決に「遺憾」を連発するだけでは何も前へ進まないことを自覚すべきだろう。