戸塚章介(元東京都労働委員会労働者委員)
NHKの朝ドラ「なつぞら」にはまっている。ひとつには主人公のなつがおれと同じ年だということ。従って高校(なつは農業高校)卒業も同じ1956年。卒業と同時に上京するのも同じ。なつは新宿だがおれは住まいは赤羽、勤め先は有楽町。コンピュータグラフィックスで描く当時の街並みが郷愁を呼ぶ。
なつはこれからアニメーターを目指してがんばるようだが、この業界は並の労働条件ではない。桁違いの長時間労働の世界だ。そこでなつがどんな働き方をするのか、どう才能を伸ばしていくのか、目が離せない。NHKは朝ドラの土曜放映を止めると言っている。それがどうドラマに影響するのかも関心事だ。
ところでアニメ業界だが、今でも働かせ方は変わらないようだ。5月17日付『朝日』デジタル版が実態を取り上げている。「アニメ業界、働き方は『インパール作戦』パワハラも」。アニメ制作会社「マッドハウス」で働く男性が長時間労働を労基署に告発。労基署は違法と認定し、会社に是正勧告を発した。
男性は告発する。「スケジュールが厳しくなってくると、睡眠時間は連日3~4時間になり、昼夜は逆転し、家に帰れなくなります。仮眠は会社のデスクでとります」「37日間連続で勤務を強いられたこともあるし、1か月の総労働時間が393時間に及んだこともあります」「ある日の朝、帰宅途中の路上で倒れ、救急車で運ばれました。それでも1日休養しただけで、翌日から再び出勤しました」。
「業務はいっこうに改善されず、残業代も適切に支払われない。先輩社員は年々やめていく。インパール作戦(太平洋戦争中、無謀な作戦で多大な犠牲を出した旧日軍の行為)みたいなむちゃなことを何年も何年もやっていては、自分はこの仕事を続けられない。そう考え、今年3月ユニオン(ブラック企業ユニオン)に加盟し、4月にマッドハウスに対して団体交渉を申し入れました」。
日本のアニメは海外の映画祭やアカデミー賞などでも高い評価を受けている。興行的にも日本映画界に寄与するところ大である。業界で働く労働者は「意義ある仕事」だとして歯を食いしばって働いている。そんな若者をぼろぼろにするまで働かせることは日本文化にとっても計り知れない損失である。
朝ドラ「なつぞら」がアニメ産業で働く労働者の労働条件抜本改善へのきっかけになればいいな、と思っている。