戸塚章介(元東京都労働委員会労働者委員)比大統領の発言は確かに「暴言」だが 16/10/08
今年6月にフィリピン大統領に就任したロドリゴ・ドゥテルテ大統領の相次ぐ「暴言」が世界中で話題になっている。「暴言」は「麻薬撲滅」に関するものと「アメリカ批判」が主な内容である。フィリピン国民が麻薬蔓延の被害に遭っていることは事実なのだから「麻薬撲滅」は国民感情を捉えている。ただその方法がいかにも暴力的であり、「麻薬犯罪者は殺して当然」の言動も過激過ぎるということだ。
一方アメリカのオバマ大統領への悪罵も相当なもの。「オバマ、テメェーフザケンじゃねーぞ、このクソッタレの売春婦の息子が!麻薬犯罪者をぶっ殺すのは当然だろうが!テメ―なんかとの会談はお断りだ」。ここまで言われたのではオバマさんも頭にきて9月5日に予定されていた米比首脳会談は流れてしまった。これにはドゥテルテ大統領も言い過ぎだと反省したらしく後日発言を取り消して謝罪した。
アメリカに対してはそのほかにも「アメリカは馬鹿野郎だ。俺に口出しすんじゃねー」「フィリピンは主権国家だ。もう植民地ではない」と言ったらしいが、後の発言なんか暴言でも何でもない。ドゥテルテ大統領が何故「植民地ではない」とこだわるのか。それはアメリカとの軍事的関係に端を発する。
フィリピンは太平洋戦争で日本が負けて撤退してから、独立国とは言え、ずっと事実上アメリカの軍事的経済的支配下に置かれた。日本の安保条約と同趣旨の米軍基地受け入れ条約を結んでいた。それが1992年、ラモス大統領の時に基地協定(米比相互防衛条約)を破棄してアメリカ軍を総撤退させた。
ところが2013年に就任したアキノ3世大統領はアメリカの要望を受け入れて米軍再駐留の交渉を始め、2014年4月、米比新軍事協定を結んでしまった。アメリカにしてみればこれで南シナ海への進出を強める中国をけん制する足がかりができたことになる。これに反発する国民感情をドゥテルテ大統領が代弁しているとも見られるのだ。その証拠に「暴言」を繰り返す大統領への支持率は今でも80%近い。
フィリピンのヤサイ外相はドゥテルテ大統領の外交発言を擁護して「国内外の安全保障上の脅威に有効に対処するために足かせになっている依存から脱却することは、米国の利益に対するわが国の従属に終止符を打つ上で必要不可欠になった」と述べ、米国との軍事同盟の見直しを表明した。
日本メディアはドゥテルテ大統領の表面上の「暴言」のみ評するのでなく、国の安全保障とは何か、軍事同盟や米軍の駐留はこのままでいいのか、という観点から日本の現状に照らして考察する必要があるとおれは思うのだが。