戸塚章介(元東京都労働委員会労働者委員)横山秀夫「64(ロクヨン)」を読んだ 16/11/26
バリ島往復の機中で読むために何がいいか。お茶の水駅前の丸善の文庫本売り場でふと目に止まったのがこの本。横山秀夫著「64(ロクヨン)」。文春文庫上巻355ページ、下巻429ページ、ともに税抜価格640円。あそうか今気がついた。「64」だから640円なのか。洒落たことするな。
どこか特定してないD県警が小説の舞台説。帯の惹句「ミステリー界を席巻!究極の警察小説」(上巻)、「怒涛の展開、驚愕の傑作ミステリー」(下巻)。俺の読後感で言えば何が「究極」で何が「驚愕」なのかよく分からないが、ま、面白いのは面白かった。著者は元上毛新聞記者だ。
それにしてもD県てどこだろう。著者が上毛の記者だったというから群馬県警かな。そしたら最近のネットニュースで千葉県警が強姦犯人の千葉大生の氏名を匿名で発表して問題になっていた。なるほど千葉県警もあるな。いずれにしても作中に東京新聞記者が出てくるから首都圏ということになる。
主人公はD県警の広報官。腕のいい刑事だったが、不本意な人事で畑違いの部署に回された。広報官はマスコミ対策が仕事だ。広報室は記者クラブの隣にある。何かというと記者たちが押しかけてくる。記者クラブには朝日、毎日、読売、東京、産経など実在社のほかに東洋新聞、地元のD日報と全県タイムス、地元テレビ局のDテレビ、ラジオのFMケンミンが入っている。記者クラブの描写はさすがリアルだ。
これらのメディアのうち作中で主な働きをするのが架空の東洋新聞で、キャップの秋川とサブキャップの手嶋。秋川は記者クラブを扇動して主人公の三上広報官を攻めたてる。広報室と記者クラブの対立の種は交通事故の加害者の名前を匿名にしたこと。加害者の主婦はD県の公安委員会の大物委員の娘だから県警としては発表したくない。記者クラブは怒って本部長あてに抗議文を出すと息巻く。
そんなこんなで揉めてる最中に誘拐事件が発生する。東京から応援の記者がどっと駆けつける。D県警は喧噪の渦だ。事は誘拐事件だから犯人が捕われるか、被害者が見つかるか(死体の場合もある)するまで報道規制しなければならない。警察幹部、キャリア組、広報室と100人を超えるメディア関係者のつばぜり合いが始まる。この辺のストーリーの進め方はスピード感と熱が籠っていて迫力がある。
県警と本庁の権力争いが背景にあるが、警察の内部のことなのであまり興味が沸かない。事件報道とマスコミの使命、国民の知る権利にどう応えるのか。それが問われる小説だったと思う。