戸塚章介(元東京都労働委員会労働者委員)明乳に労使協議を強制する中労委命令を 17/02/05
明治乳業全国工場事件の中労委命令がもうすぐ出る。おれと明乳賃金差別事件の関わりは1987年11月から。市川工場事件の都労委審問が始まってすぐのことだ。それから市川事件の都労委、中労委、東京地裁、高裁、最高裁、さらに全国事件の都労委と6つの命令、判決が出された。全て敗訴である。
今回の中労委命令が7件目、最初の申立から32年になる。もちろん今度こその思いが強いが、不安もある。不当労働行為が認定されたとしても、救済内容をどうするのか。命令主文の書き方が難しい。事件の申立人は市川事件、全国事件合わせて64人いるが、すべて定年退職している。12人は恨みを呑んだまま他界した。不当労働行為制度は原状回復主義が基本だがもう現状回復の余地はない。
しかし何らかの救済措置がとられなければこの争議は終わらない。どんな救済措置があるのだろう。おれは①申立人らの名誉回復と②解決金の2つだと思っている。申立人らが60年代以来組合活動をしてきたこと、会社がそれを嫌って様々な苛め行為をしたことははっきりしている。在職時「ならず者」呼ばわりされた申立人らの名誉回復は絶対必要だ。それと差別是正の後払いとしての解決金だ。
労働委員会制度は当初科罰主義がとられた。不当労働行為は犯罪だからそれを犯した経営者は刑事罰を受けたのである。それが1949年の労組法改正で現状回復主義に移行した。組合を嫌って委員長を解雇したらバックペイを払って復職させればいいというわけだ。もっとも「今後不当なことはしません」という誓約書の社内掲示を命ずるポストノーチスという制度があるが刑事罰とは意味が違う。
ということで、労働委員会は申立人らの名誉回復措置を命令するのは躊躇するということになりかねない。だからといって会社を免責するのではあまりに不当労働行為救済を標榜する労働委員会として情けない。労働者救済の使命を投げ捨てていいのか。おれはそこで一つの提起をしたいと常々思っていた。それは争議解決のためのテーブルに強制的に会社をつかせるということ、つまり協議命令のようなものだ。
明乳という会社は一貫して申立人らとの和解を拒否してきた。今回の中労委でも中労委側からの熱心な和解打診を頑なに拒否し続けた。労働争議は解決のための協議がなければ永遠に終わらない。申立人らとの協議を一切拒否してきたこと自体が不当労働行為なのだ。中労委が会社を強制的に協議の場に引きずり出す命令を発してもおかしくないとおれは思う。それは労働委員会の裁量権の範囲のはずだ。