戸塚章介(元東京都労働委員会労働者委員)「共謀罪」から連想したこと 17/02/11

明日へのうた]より転載

 「話し合っただけで罪になる」共謀罪法案が国会に提出されようとしている。実際に犯行に至らなくてもその企てをしたというだけで死刑になった大逆事件・幸徳秋水の例もある。しかもあれは「共謀」容疑自体が明治天皇制国家のでっち上げだった。再び怖い世の中になりそうな雲行きだ。

 「共謀」を広辞苑でひいてみたら「2人以上の者が共同で企むこと」と出ていた。なるほど2人以上で企むから共謀なのか。それでは1人で企むのは罪にならないのかな。1人だってテロ行為はできるのに。多分2人以上で企めば証拠が残るが1人の心の中の企みでは犯罪を立証できないということだと思う。

 子どもの頃読んだ漫画にウソ発見機というのが出てきた記憶がある。本人がいくら否定してもこの機械にかけるとたちまちウソがばれてしまう。人の心の中を見透かす機械なのだ。長じておれは「妄想罪」という短編小説を書いた。ある男が電車から降りたとたんに痴漢行為で警察官に逮捕される話だ。

 男は「おれは何もしていない」と抗議する。すると警察官は「お前は最近改正された刑法を知らないのか。お前は電車の中で前に立っている若い女性の裸を妄想していた。これは痴漢行為なのだ」「いい女だと思って見てはいたが裸なんか想像していない」「そんなこと言い張っても無駄だ。証拠がある」

 電車の中には監視カメラが備え付けられていた。このカメラには特殊なセンサーがついていて、人間の心の中まで写し取ることができる。警察官は男に男の心の中の映像(女性の裸体)を見せ「これが何よりの証拠だ」と自信満々で迫ってきた。男は警察官に監視カメラの他の映像も見せるように要求した。

 そこには件の警察官が映っていてこんなことをつぶやいていた。「ここのところおれの犯罪検挙率は下降気味だ。この辺で成績を上げないと免職になってしまう。あ、あそこに前の女をじろじろ見ている男がいる。あいつを妄想罪でしょっくくれば点数が上がる」。――監視カメラの映像は妄想だらけだった。

 この短編小説は書いているうちに何がなんだか分からなくなって途中で挫折した。しかし人の心の中に入り込んで犯罪に仕立て上げるなんて世の中が来ないとも限らない。共謀罪はその入り口なのかなあとも思う。憲法13条に明記された「個人の尊厳」を守るたたかいがますます重要になっている。