戸塚章介(元東京都労働委員会労働者委員)宅急便職場の過重労働と「通販」の横暴 17/03/06
宅配便最大手のヤマト運輸に関する報道が目立つ。「宅配便、ネット通販重荷」「人手追いつかず」「再配達コストかさむ」(3月4日付『毎日』)。「ヤマト未払い残業代支給」「5.8万人調査へ」(4日付『毎日』夕刊)。「ヤマト未払い残業代支給へ」「7万人調査 労働者と共産党追及実る」(5日付『赤旗』)。
「インターネット通販の普及で宅配便の取扱量が急増し、宅配便最大手のヤマト運輸が荷物の引き受けや配達時間の見直しに乗り出した。ドライバーも足りず、荷物を配達しきれなくなっているためだ。ネットで注文し、時間を指定して商品を受け取るという日本で進化を続けた宅配サービスが転機を迎えている」。
ヤマト運輸がクロネコメール便を廃止したのが15年3月。その時も人手不足と労働者の低賃金が指摘されたが、職場事情はさらに深刻化している。ヤマト運輸労組にこんな悲鳴が寄せられているという。
「東京都内のあるドライバーは午前8時頃、荷物の集配所である《宅配便センター》に出勤。午前中いっぱい配達した後、昼にセンターに戻って食事や休憩。午後は再び荷物を積んで配達や集荷に走る。午後に集めた荷物を各地に送り出すため、夕方にはセンターに戻り、夜は再び配達に出る。昼間に配達がさばききれないことに加え、夜間の配達指定も多く、午後8~9時が特に忙しい」。
こんなに仕事をしても残業代がきちんと支払われていなかった。『赤旗』記事によれば「同社の宅配ドライバーは、専用端末を使って勤務時間を管理。しかし、端末の電源を入れる前や端末返却後にも仕事が行われており、サービス残業が常態化していました」という。未払い残業代は数百億円の可能性がある。
現場の過重労働の改善に、連合・運輸労連傘下のヤマト運輸労組も取り組みを始めた。17年春闘労使交渉で「宅配荷物総量をこれ以上増加させないこと」「まず、18年3月期の宅配個数を17年3月期を上回らない水準にすること」を要求する方針だ。おれには少し生ぬるい要求に見えるが、企業内組合が会社の業務内容に注文を付けるという意味では画期的なことだとも言えよう。
宅配便危機の根源にはインターネット通販業界の横暴がある。彼らは大口発注をたてに厳しい割引条件を押し付けている。労働組合は企業内の要求だけでなく、これらの構造的問題にも取り組む必要があるのではないか。