戸塚章介(元東京都労働委員会労働者委員)
5月7日に投開票されたフランス大統領選の決選投票は、中道・独立系といわれるエマニュエル・マクロン氏が予想以上の大差で当選した。「仏大統領にマクロン氏」「『欧州の共同体守る』」「ルペン氏破る 親EU維持」(9日付『毎日』1面)。英国のEU離脱で欧州統合が揺らぐ中、フランス国民の穏健な選択に安堵したというのが一般的な受け取り方だ。日本の株式市場も数百円の高騰だったらしい。
おれがおやっと思ったのは「『負け組』の声聴け」と題した福島良典元パリ支局長の解説記事だ。見出しだけでは何のことか分からないので中身を読んでみた。――EUは「人、物、資本、サービスの移動が自由」であり、それに恩恵を受ける「勝ち組」としわ寄せを食う中間、労働者層の「負け組」という「社会の分断」を深めた。この負け組の不満を吸収したのが極右のペロン氏だという論法だ。
EUという形で欧州統合を進める中で「格差と貧困」が広がっていることは確かだ(それを「勝ち組」「負け組」と表現するのが正しいかどうかは議論の余地があるが)。マクロン氏が、EUの緊縮政策に無批判で労働者層から反発を受けていることは間違いない。しかしだからといって極右のマリ―ヌ・ペロン氏が労働者の味方ということにはならない。そこはフランスの労働者は見抜いたんじゃないかな。
本10日付『赤旗』は早速フランスの労働者が反マクロンで立ち上がったことを報じている。「新自由主義政策やめて」「仏労組デモ マクロン氏に抗議」。新大統領が決まった翌日の8日、CGTなどが呼びかけてパリ市内でデモ。1500人が集まった。デモはリヨンなど地方都市でも行われたという。
おれはCGTなどのフランスの労働組合、欧州労連(ETUC)の存在に信頼をおいている。EUの経済政策が反労働者的なのはアメリカ系の多国籍企業やIMFの影響などから脱していないからだ。ヨーロッパの労働運動はきちんとそれを捉えて対決している。日本ともアメリカとも違う。
確かに今回の仏大統領選では旧来の左翼政党が決選投票以前に脱落したが、トランプを当選させたアメリカと違って、衣の袖に鎧を隠したペロン氏を大統領にはしなかった。つい72年前まで戦争をしていた欧州が、国境をなくす統合を目指している。それがEUだ。歴史的にはまだ端緒に着いたばかり。これからまだ紆余曲折はあるだろうが、必ず理想は実現するとおれは信じている。