戸塚章介(元東京都労働委員会労働者委員)

絶対お薦めの本「ともにがんばりましょう」 17/05/31

明日へのうたより転載

 バリ島在住の光森さんがグループメールで紹介していた塩田武士著「ともにがんばりましょう」を読んだ。著者は1979年兵庫県生まれ、神戸新聞社に勤務後小説家になる。神戸新聞を彷彿とさせる発行部数75万部の上方新聞が小説の舞台。おれが読んだのは講談社文庫で395ページ、740円+税だ。

 多分2010年前後の秋年末交渉。議題は①年末一時金、②深夜労働手当の引き下げ問題、③ハラスメント防止の三つ。組合側交渉メンバーは委員長、副委員長、書記長と4人の執行委員。会社側は労担をかしらに総務局長、各局次長クラスのこちらも7人。10月26日の会社回答から11月15日の交渉妥結まで必死の攻防が続く。主人公で教宣担当の武井執行委員は寝る間もなく奮闘させられる。

 上方新聞労働組合は新聞労連加盟だが、体質は根っからの企業内労組である。組合と対峙している朝比奈労担は10数年前の労組委員長であり、現寺内委員長も退任後は会社中枢を担う人物だ。だから対立しても奥深いところでは信頼感や連帯感がある。しかしだからといって交渉議題での安易な妥協は許されない。数百人の組合員の生活がかかっている。働きやすい労働環境を維持しなければならない。

 おれはこの労使交渉の悪戦苦闘を読んでいて。40年前の毎日労組を思い出した。当時毎日新聞社は金融資本に揺すぶられて倒産の危機にあった。おれは本部交渉員ではなかったが、大住委員長、福島書記長らは、議題や深刻さは違うものの、基本的にはこの小説と同じような立場で苦闘したのだと思う。

 妥結を前にした寺内委員長の言葉が泣かせる。「私はこれまで、情報の海を渡るのに、再販制度、記者クラブ制度、戸別配達でつくられた『新聞』という豪華客船にとって代わるものなどないと思ってました。しかし、90年代半ばよりパソコンと携帯電話が同時普及し、国民の生活の質を変えてしまいました」

 「豪華客船とはまるで違う構造の、船ともポートとも判別がつかない乗り物が、いま情報の海を失踪しています」「(かつての豪華客船は)船底には穴が開き、徐々にその身が沈みつつあります」「しかし、きれいごとを抜きにして我々は生き延びねばなりません。それは単なる生活者としてではなく、新聞人としてです」「こんな時代だからこそ、新聞の存在意義が問われるはずです」。

 新聞労働運動に携わった人はもちろん、新聞に関心を持つ多くの人に読んでもらいたい本だ。