戸塚章介(元東京都労働委員会労働者委員)
朝ドラの「ひよっこ」が面白くなくなった。いやドラマそのものは今でも結構面白いのだが、なんというか「社会性」がなくなった。で、おれにすれば「面白くねえ」となるわけ。このドラマ、舞台が茨城ということで親しみがあったが、農村の困窮と出稼ぎとか集団就職とかも描かれていた。それがよかった。
主人公のひで子が高校を出て就職したのが、トランジスタラジオを組み立てる向島電機工場。100人以上の女性労働者が全寮制で働いている。この工場にはコーラス部があり、ロシア民謡や「手のひらのうた」などを合唱する。コーラス指導と指揮を務めるのは別工場で働く青年。彼は警官の姿を見て警戒するから、たぶん活動家だと思われる。向島電機に労働組合をつくるのかなとおれは期待した。
工場は、トランジスタラジオの需要減と東京オリンピック後の不況のためにあっけなく倒産してしまう。企業倒産、全員解雇を言い渡すのは現場の職制で、会社幹部は一切姿を現さない。女性労働者たちは素直に解雇に応じ再就職先を探す。それを手伝う寮の女性舎監もとびきり善人に描かれている。
工場設備の解体の寸前、入社1年の少女が食堂に立て籠もって「私は嫌だ。この工場を離れない」と抵抗する。解体工事をするのも労働者。責任者はドアを壊せと命じるが誰も手を出さない。結局1人で職場占拠した少女は舎監をはじめ同僚たちの説得に折れてカギを開ける。ドラマは無事?決着だ。
当時向島電機のあった葛飾、隅田、江東は労働運動が活発な地区の一つだった。100人もの女性労働者が全員解雇されるのを地区労や全金が黙って放っとくわけがない。大体あのコーラス指導をしていた活動家らしい青年はどうしたのか。工場閉鎖あたりからとんと画面に見られなくなった。おれには気にかかる。
善人同士のいたわり合いで進行する心温まるドラマというのも悪くはないが、それだけでは社会性に欠け、ワサビの効かない寿司みたいになってしまう。おれは「ひよっこ」をサビ抜き寿司にしてしまったのはNHKだと思う。あのコーラス指導の青年を登場させた時点では、工場閉鎖に反対する女性労働者たちのたたかいを描くつもりではなかったか。途中で変えられたとおれは考えている。
おれがNHKテレビを見るのは朝ドラと朝夕のニュースくらいだが、NHKは金輪際「共謀罪」という言葉を使わないつもりらしい。朝ドラもニュースも「庶民の抵抗」を故意に否定あるいは無視している。これでは権力への「忖度メディア」と言われても仕方あるまい。